衛星データ解析プラットフォーム 技術ドキュメント
1. イントロダクション
GEO AI Platformは、欧州宇宙機関(ESA)が運用する地球観測衛星「Sentinel(センチネル)」シリーズのデータと、独自の機械学習アルゴリズム(ランダムフォレスト等)を組み合わせることで、高精度な地表変化の検出や水害リスクの推論を行うSaaS型プラットフォームです。
本ドキュメントでは、本サービスで主に使用される2種類の衛星データ(Sentinel-1 / Sentinel-2)の基礎的な特徴と、解析アルゴリズムの全体像について解説します。
| 衛星名 | センサータイプ | 波長/バンド | 観測可能条件 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| Sentinel-1 | 合成開口レーダー (SAR) | Cバンド (マイクロ波) | 全天候昼夜 | 浸水抽出, 地表変化, インフラ監視 |
| Sentinel-2 | 光学マルチスペクトル | 可視光〜近赤外 (13バンド) | 晴天時昼間 | 植生監視, 土地被覆分類 |
2. Sentinel-1 の基礎
Sentinel-1 は、SAR(Synthetic Aperture Radar:合成開口レーダー)を搭載した地球観測衛星です。自らマイクロ波を地表に照射し、その反射波(後方散乱係数)を観測します。
SAR解析の特徴
- 全天候・昼夜観測: 光ではなくマイクロ波を利用するため、太陽光が不要であり、厚い雲や雨を透過して地表の状況を捉えることができます。これが災害時の迅速な状況把握において最大の強みとなります。
- 解像度と観測周期: 空間解像度は約10m、観測周期は約6〜12日(日本付近の場合)であり、広域の定期的な監視に適しています。
- 本サービスでの用途: 浸水エリアの抽出、地盤変動の監視、インフラ工事や大規模造成に伴う地表変化の検出などに利用されます。
3. Sentinel-2 の基礎
Sentinel-2 は、可視光から近赤外、短波長赤外までの波長帯を観測するマルチスペクトル(光学)センサーを搭載した衛星です。人間の目で見える色に近い画像や、植物の活性度を測るデータを提供します。
光学データの特性
- 高解像度と多波長: 空間解像度10m〜20mで、地表の状況を視覚的にわかりやすく捉えます。
- 指標(インデックス)計算: 近赤外バンドを利用した NDVI(正規化植生指標)などの演算により、農作物の生育状況や森林伐採の監視が可能です。
- 雲・影の影響: 光学センサーの性質上、雲に覆われている箇所や、雲の影が落ちている箇所は地表の正確な観測ができません。本サービスでは前処理にてクラウドマスク処理を実施します。
スペクトルバンドと反射特性
(可視光)
(NDVI活用)
4. 解析アルゴリズムの全体フロー
本プラットフォームは、Google Earth Engine (GEE) と連携したバッチ処理パイプラインを持ち、BigQueryをデータウェアハウスとして利用しています。
内部で実行されるデータ処理パイプラインは、主に以下のプロセスで構成されています。
AOI(解析範囲)の設定
ユーザーがマップ上で指定した関心領域(Area of Interest)の座標情報を取得します。
データ抽出・バッチ処理
Google Earth Engine (GEE) 等から、平常時および災害時のSARデータを取得する自動バッチ処理を実行。APIレートリミットを考慮した自動リトライ機能も内包。
前処理 & 特徴量エンジニアリング
偏波のバック散乱強度の正規化、幾何補正、ノイズ除去を実施。コヒーレンスデータ等を用いた特徴量作成コードによりBigQueryへデータをロード。
推論・機械学習モデル適用
ランダムフォレストや勾配ブースティング、ディープラーニングを用いた分類モデルにより、ピクセル単位での浸水被害確率を推論。
結果の保存と可視化
推論結果のポリゴンやラスタデータをDBに保存し、FastAPI経由でダッシュボード上にオーバーレイ表示。
5. 主要アルゴリズムの概要
本サービスで提供している主要な解析エンジンの処理概要は以下の通りです。
5.1 浸水検出(Sentinel-1 & 機械学習)
水面はマイクロ波を鏡面反射するため、衛星に返ってくる信号が極端に弱くなります。
この特性と合わせて、本システムでは Ashman係数 (Ashman's D) 等を用いた分布解析や特徴量エンジニアリングを組み込み、Random Forest等の機械学習モデルによって、単なる閾値判定よりも高精度な浸水域の抽出を実現しています。
5.2 地表変化検出(工事・造成・災害)
工事現場や土砂崩れなどの物理的な変化は、地表の粗さ(表面粗度)を変化させます。Before/Afterの画像を対数差分し、強度が大きく上昇・低下した領域のテクスチャ変化を統計的に抽出します。
5.3 植生変化(Sentinel-2)
Before/Afterのそれぞれの時期で NDVI を計算し、その差分を評価します。森林伐採や農作物の収穫による急激な植生の喪失をヒートマップ化します。
6. 解析結果の読み方とUI
ダッシュボード上にオーバーレイ表示される解析レイヤーは、直感的に状況を把握できるよう最適化されています。
- 青色: 浸水・冠水と推定される領域(水面の拡大)
- 赤色 / 暖色: 地表の構造変化(建物の倒壊、造成、森林伐採など)が起きた領域
7. 制約と注意事項
衛星データ解析システムを活用するにあたり、以下の制約事項をご留意ください。
- SARの特性による誤差: ビル密集地(アーバンキャニオン)や急峻な山岳地帯では、電波の多重反射やレイオーバーにより、解析精度が低下することがあります。
- 光学データの天候依存: Sentinel-2等を用いた解析では、対象期間が長期にわたって雲に覆われている場合、有効なデータが取得できない期間が生じます。
- 意思決定支援ツールとしての位置づけ: 本サービスが提供する解析結果は補助情報です。最終判断は現地調査と照らし合わせて行ってください。
引用およびリファレンス (References & Credits)
- 衛星データクレジット: Contains modified Copernicus Sentinel data [2024], processed by ESA. 本プラットフォームで使用する Sentinel-1 および Sentinel-2 のデータは、欧州宇宙機関 (ESA) のオープンデータポリシーに基づき利用しています。
- 基盤技術: Powered by Google Earth Engine (GEE). バッチ処理およびデータセットの初期取得にはGEEを利用しています。
- アルゴリズム参考: Ashman, C. M., et al. (1994). "A metric for distributions..." を基にした Ashman's D (双峰性係数) をSARヒストグラムの浸水閾値判定時の特徴量として活用しています。